【独占インタビュー】HERMESを『営業』に取り入れた敏腕女性セールス”孕石あづさ”の哲学
セールスは、セールスを真似るべきなのか?
多くの人が営業スキルを磨こうとするとき、最初に手を伸ばすのは「成功している誰かの手法」だろう。
セミナーに通い、YouTubeを見て、人気営業マンの話し方やアプローチの仕方をそっくり真似る。
それ自体は間違いではない。模倣は学習の第一歩だからだ。
しかし、ある一定のステージに到達した人ほど、次にこう感じることがある。
「誰かの真似では、信頼は積み上がらない」と。
そうした中で、今注目されているのが、ある女性セールスだ。
現在兵庫県に本社を置くヒューネット株式会社の取締役営業部統括部長の『孕石あづさ』さんです
彼女のスタイルは特異だが、決して派手ではない。ただ、「選ばれる営業」として、確実に成果を積み上げ続けている。
その理由は、フランスの名門ブランド「エルメス(HERMÈS)」の“哲学”を、自身の営業活動に取り込んだからだ。
トークスクリプトやロールプレイングではたどり着けない、“存在そのもの”を選ばれる営業へ──彼女はそこにたどり着いた。
『孕石あづさ』を変えた、エルメスとの出会い
20代前半、彼女は営業の世界に飛び込んだ。
がむしゃらに働き、目の前の数字に追われながら日々をこなしていた。
そんな彼女の唯一の楽しみは、休日のショッピングだった。ルイ・ヴィトン、グッチ、シャネル……美しいバッグたちは、彼女にとって「いつかの自分」を投影する夢だったと語る。
中でも、エルメスは別格だった。
「どうしてエルメスは、こんなにも高価で、扱いが特別で、長く愛されるのだろう?」
ふとした疑問が、彼女の“美意識”を目覚めさせた。
それからというもの、彼女はエルメスの歴史や哲学、製造工程に至るまでを独学で学び続けた。
自分が“買えるようになる”その日を夢見ながら。
エルメスの本質は「信頼されるものづくり」
エルメスを語るとき、多くの人はバーキンやケリーの高額さに注目する。
だが、孕石氏が惹かれたのは「そこに込められた美学」と語る。
エルメスのバッグは、熟練の職人が一つひとつ丁寧に手作業で仕上げる。
特に“サドルステッチ”と呼ばれる技法は、馬具づくりに由来する伝統的な縫製技術で、ミシンでは決して再現できない強度と美しさを持つ。
また、使うほどに革が馴染み、変化していくよう設計されており、「完成品であって、未完成」──持ち主と共に育っていく“生きたバッグ”でもある。
さらに、広告に頼らず、“商品自体が語るブランド価値”を貫く姿勢も、彼女にとっては衝撃的だったと思いを語る。
「売らないことで価値を高めているブランドがある──その逆説に、心を奪われた」
「私はエルメスのようなセールスになりたい」
営業に悩んでいたある日、孕石氏はふとこう思ったそうです。
「私が提案する商品も、エルメスのように“信頼から生まれる価値”を宿せないだろうか?」
それから彼女は、次第に営業スタイルを変えていった。
・「数を追う」営業ではなく「一人ひとりを深く理解する」営業へ
・「今月の目標」ではなく「5年後の顧客との関係」を描く提案へ
・「話し上手」ではなく「聞き上手」に徹し、相手の言葉の奥を読む姿勢へ
「私は万人に好かれる営業ではなくていい。でも、美学と信頼だけは崩したくない」
彼女にとっての“売る”とは、「無理やり手に取らせる」ことではなかった。
むしろ「いつまでも記憶に残る提案をすること」だった。
■ 「孕石あづさが売るから価値がある」と言われる営業に
エルメスのバッグが“本物”である理由は、誰が作ったか、どこで売られたか──が明確だからだ。
コピーや模倣品がいくら溢れても、「あのブティックで、担当から手渡されたあの一本」は唯一無二の価値を持つ。
彼女もまた、「あなたから買いたい」「あなたが言うなら信じる」と言われる存在になっていった。
“商品”ではなく“人間”に付く信用──それこそが、彼女の築いたブランドだった。
■ エルメスがある限り、彼女のスタイルは揺るがない
現在、彼女は企業の取締役としても手腕を発揮しつつ、エルメスの店舗を定期的に訪れる。
「新しいアイデアは、いつもエルメスの店舗でもらえるんです」
顧客からも「今日はバッグエルメスじゃないんですね?」と持ち物などを冗談交じりにイジられる言われるほど、彼女とエルメスは一体化している。
「もう私は、エルメスのようにありたいと思ってるんです。選ばれる理由が、そこにあるから。」
■ 孕石あづさという女性セールスは「売る」のではなく、「選ばれる」存在へ
孕石あづさがセールスに取り入れたのは、トークスクリプトではない。
エルメスが何十年にもわたり守り続けてきた、“信頼”と“誠実”という哲学だった。
「本物は、時間がかかる。けれど、崩れない。」
「売り込みよりも、“語るに値する存在”であることが重要。」
今、営業に迷う誰かがいるならば──真似すべきは誰かの“言い回し”ではなく、“在り方”そのものかもしれない。
インタビュアー:営業ノウハウ研究所